アートブログ
2023.6.7 [展覧会情報]
富山県美術館では、2023年6月3日(土)〜7月17日(月・祝)の間、「富山新聞創刊100年記念「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 ―瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄」展が開催されます。
今回はその開催概要についてお伝えします。
本展は、1930 年代の「前衛写真」から80 年代まで、富山県出身の詩人・美術評論家の瀧口修造(1903-79)の思想を受け脈々と引き継がれた前衛写真の精神とその魅力を、4 人の作品や資料を中心にウジェーヌ・アジェ、マン・レイなど関連作家の作品を加えて紹介されています。
日本の写真史における前衛写真は、シュルレアリスムと抽象主義の影響を受け、1930 年代に台頭してきました。
瀧口は、その推進に大きく寄与しましたが、写真の記録性を重視し、故意に実在を破壊、加工する技巧的表現に偏重しつつあった傾向に対して早くから警鐘を鳴らし、ストレート・フォトでもシュルレアリスム的な表現が可能であると主張しました。
瀧口とともに1938 年に「前衛写真協会」を立ち上げた阿部展也(のぶや)(1913-71)は瀧口に共鳴し、ともに『フォトタイムス』誌などに作品や評論を発表し、精力的な活動を展開しました。
その頃中学生だった大辻清司(1923-2001)は、瀧口や阿部に多大な影響を受けて写真家を志します。
そして、50 年代から造型的な写真を発表しますが、やがてオートマティスムの手法を採用したスナップショット的な「なんでもない写真」へと変化を遂げていきました。
その大辻に見出され、写真の才能を見事に開花させたのが、牛腸(ごちょう)茂雄(1946-83)です。
牛腸は日常における「自己と他者」をみつめ、技巧に凝らず誇張なしに撮影した「コンポラ写真」の代表的な1 人として注目されました。
本展では、1930 年代の「前衛写真」から80 年代まで、瀧口の思想を受け脈々と引き継がれた前衛写真の精神とその魅力を、4 人の作品や資料を中心にウジェーヌ・アジェ、マン・レイなど関連作家の作品を加えて紹介されています。
これまでなかなかまとまって紹介されることのなかった「前衛写真」の作品や資料を堪能できるとともに、瀧口修造、阿部展也、大辻清司、牛腸茂雄の4 人により「前衛写真」から「なんでもない写真」へと継承された「前衛」精神の流れを見ることができます。
『フォトタイムス』15 巻5 号表紙 写真:阿部展也 1938 年 新潟市美術館蔵
一見、造られたのか拾ってきたのか、意図も用途もわからない不思議な物。
こうした「オブジェ」の精神を表現するのに写真が最適であるとした瀧口修造の主張を、阿部は強烈なインパクトの写真で見事に体現しています。
牛腸茂雄《SELF AND OTHERS》1977 年 新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵(前期のみ展示)
こわばった顔をした双子の姉妹。写真の側から見つめられているような、不思議な感覚に魂が揺さぶられます。
カメラの向こうの牛腸と2人の感情の交叉を想像すると、「自己と他者」というテーマが強烈に迫ってきます。
何気ない日常を、誇張や強調をせずありのままの姿で撮る「コンポラ写真」の代表的存在の1人とされる牛腸の代表作の1点です。
なお、期間中の水曜日は休館日となっております。
開催状況につきましては、公式サイトでご確認ください。
富山県美術館 公式サイト
https://tad-toyama.jp/