アートブログ
2023.2.22 [展覧会情報]
十和田市現代美術館で、2023年6月4日(日)までの期間に開催される「百瀬文 口を寄せる」。
今回はその開催概要についてお伝えします。
百瀬は主に映像作品で、他者とのコミュニケーションの中で生じる不均衡をテーマとし、身体・セクシュアリティ・ジェンダーを巡る問題を追究しています。
本展では、女性声優をテーマにした新作サウンド・インスタレーション《声優のためのエチュード》を発表します。
この作品は、「声」だけが聞こえ、性別を判断できるキャラクターの容姿やしぐさが映し出されたアニメーションがありません。
映像と切り離された「声」は、性別を超えた流動的な存在として表れます。
新作の他に、耳の聞こえない女性と耳の聞こえる男性との触れ合いに生じるすれ違いが映し出されている《Social Dance》や、百瀬の父親が百瀬の書いた173問の質問項目に口頭で答えていくなかで、その回答が父親の意志から離れていく《定点観測[父の場合]》など、性別や世代の異なる他者との関係やその背後にある見えない存在や抑圧が映し出された作品を出展します。
展覧会タイトルの「口を寄せる」は、他者に寄り添う動作を連想させますが、「声」がさまざまな身体を行き来していく様子にもつながります。
存在しているのに、抑えつけられ、ないものとされてきた「声」に向き合う展覧会となります。
声優という職業のことが昔からずっと気になっていた。
私たちがキャラクターを見るとき、声優の姿を見ることはできない。
声優たちの声を生身の身体に結びつけようとした途端に、キャラクターはキャラクター自身の声を失い、その姿は瓦解してしまう。
日本では伝統的に少年キャラクターの声を女性声優がずっと演じてきた。
未分化なものとしての声。
私たちが少年キャラクターの声を聞くとき、それが少年であるという判断はいったい何によってなされているのか。
声自体にはたして性別はあるのか。
今回作ろうと思っているインスタレーションは、私たちの脳裏にそのような流動的な身体を浮かび上がらせるための幻燈機のような装置である。
1. 本展のために制作された最新作《声優のためのエチュード》を初公開
本展のために制作された新作《声優のためのエチュード》を展示します。
この作品は、主に映像を用いて作品を制作している百瀬初の試みでもあるサウンド・インスタレーションです。
「声」に合わせて1つの灯が揺らぐ薄暗い空間には、スタンドマイクが1本置かれ、キャラクターに声を吹き込むレコーディングスタジオを思わせます。
誰もいない空間から聞こえる「声」は、見ようとしていなかった存在を徐々に可視化させていきます。
2. 最新作のテーマ「声」とつながる過去作の展示
本展では、今回の展覧会のテーマでもある「声」に関連する過去の作品を出展します。
《Social Dance》(2019年)や《定点観測[父の場合]》(2013年-2014年)のほか、鑑賞者がある番号に電話をかけると予期せぬ留守番電話のアナウンスが流れてくる《Here》(2016年)、視力検査を題材にした医師と患者の間の応答が映し出されている《The Examination》(2014年)などが出展されます。
そして、本展のメインビジュアルでもあり英語タイトルにもなっている新作の平面作品《Interpreter》(2022年)も展示予定です。
3. 会期中のアーティスト・トークや作品上映会
会期中にはアーティスト・トークや作品上映会を予定しております。
作品上映会では、2021年に制作した《Flos Pavonis》を上映します。
この作品は、ポーランドで2021年に成立した人工妊娠中絶禁止法や日本の堕胎罪などの状況が映し出され、個人の身体に対する国家権力による管理がコロナ禍で強化されてゆく様を感じさせます。
作品上映会後は百瀬によるトークも予定しています。
なお、会期中の月曜日は休館日となっております(祝日の場合はその翌日)。
1月10日(火)〜19日(木)はメンテナス休館。
開催状況につきましては、公式サイトでご確認ください。
十和田市現代美術館 公式サイト
https://towadaartcenter.com/