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豊田市美術館「ねこのほそ道」 2023年2月25日(土)〜5月21日(日)

豊田市美術館「ねこのほそ道」 2023年2月25日(土)〜5月21日(日)
佐々木健《ねこ》2017年 油彩、カンヴァス 個人蔵 Courtesy of the artist and Gomike

 

豊田市美術館で、2月25日(土)から5月21日(日)までの期間に開催される「ねこのほそ道」。
今回はその開催概要についてお伝えします。

自由、野生、ユーモア、ナンセンス溢れる、どこか“ねこ”のような現代美術を紹介

決して飼いならされることなく、野生を保ったまま人間とともに暮らすねこ。
なにかの役に立っているわけではないのに飼い主の情緒に豊かに訴える、そんな普通で変な生きもの。
群れをつくらずひとりで狩りをする肉食獣の彼らは、独立心が旺盛で優雅な、家のなかの小さな虎です。
これまで人間は多くの種に影響を及ぼし、世界中の動物を絶滅へと追いやってきましたが、ねこは長い時間をかけて人間と暮らすようになりました。
そして人間が自然を離れて都市を形成し高層ビルに住むようになると、ねこも一緒に空に上がってきました。
ねこは長い進化の過程で、自ら見て、触れ、嗅いで、隙間や内と外を自在に行き来しながら、あるがままの道を歩んできました。
本展では、人間とは異なる空間感覚や倫理観を持ち、言葉の秩序から逃れる逸脱可能な存在として、自由、野生、ユーモア、ナンセンス溢れる、どこか“ねこ”のような現代美術を紹介します。

出展作家

泉太郎(いずみたろう)、大田黒衣美(おおたぐろえみ)、落合多武(おちあいたむ)、岸本清子(きしもとさやこ)、佐々木健(ささきけん)、五月女哲平(そうとめてっぺい)、中山英之(なかやまひでゆき)+砂山太一(すなやまたいち)

展覧会のみどころ 現代美術を通してみた“猫的なるもの”の展覧会

豊田市美術館「ねこのほそ道」 2023年2月25日(土)〜5月21日(日)
岸本清子《I am 空飛ぶ赤猫だあ!》1981年 ラッカー、パステル、カンヴァス 宮城県美術館蔵

 

昨今、猫は絵画・浮世絵の展覧会やインターネット上で人気を集め、“猫ブーム”到来ともいわれています。
そして現代美術を通して猫を眺めると、かわいさだけではなく、日常性、くつろぎ、野生、ユーモアといった猫の特性とともに、ポエジーや異なる空間感覚、それに進化の時間などの多角的な面がみえてきます。
本展では“猫的なるもの”を媒介に、6人の美術家と一組の建築家の視点を通して、私たちの身近なところから人間中心の視点をずらしてみる試みを行います。

 

  1. 1.日常

猫はこれまで菱田春草(ひしだしゅんそう)、竹内栖鳳(たけうちせいほう)、藤田嗣治(ふじたつぐはる)などの多くの画家に描かれてきました。
かわいらしさと同時に野生味を併せ持つ猫は、画家たちの格好の題材でした。
佐々木健は、背景のない肖像画のような構図で油絵の具による写実的な猫を描いていますが、同じ手法で雑巾やテーブルクロス、ブルーシートなどの、通常目に留められることのないものたちも細密に描いています。
佐々木の絵画は、近代日本の油絵が構築しようとしてきた「大きな主題」を解体し、日常のささやかなものへとまなざしを向け直します。

  1. 2.くつろぎ

猫の優雅な無気力さと無関心な休息ぶりは、見る人を和ませます。
大田黒衣美は、人がリラックスするときに噛むガムを素材に公園で憩う人々の姿をかたどり、アトリエにふらりと立ち寄った猫のうえに置いて写真を撮ります。
そのとき、広がる猫の毛並みは平原になり、見立てのような独特なおかしみをもった風景が現れます。

3.野生

完全に飼いならされることがない猫は、時折人間の管理欲望を乱します。
岸本清子にとって、猫は愛と自由の象徴であり、「赤猫革命」と称して社会変革を訴えるパフォーマンスを行いました。
岸本の絵画やパフォーマンスは、私たちの日常におけるラディカルな攪乱要因となるのです。

  1. 4.ユーモア

いまだに野生を失わない猫は、人間とともに暮らすようになると、紐や球を追いかけたり、驚いて身長の数倍高く飛び上がったりと、数多くの愉快な習性を見せます。
泉太郎は、動物の異質性を作品に取り込んで、人間の知覚とは異なる不条理なユーモアを生み出します。

  1. 5.ポエジー

犬のように人間の指令に従うことなく、自分で触れ、嗅ぎ、見ることに頼る猫は、言葉に支配されません。
気ままにいきる猫は、しばしば非論理的な存在として多くの詩に登場してきました。
落合多武の作品に登場する猫たちは、自由な連想遊びのような豊かな余白を孕んで、独特のポエジーを生み出します。

  1. 6.ミクロとマクロ

猫の視点を介せば、本棚は山に、絨毯は大海原になります。
中山英之+砂山太一は、各部屋が岩でできた住宅模型や、紙でできた石の家具「かみのいし」を展示して、美術館の空間に変容をもたらします。

  1. 7.積層する時間

猫には、人と暮らすようになるまでの進化の長い道のりがあります。
絵画の歴史の先であくまで自らの体験に根差して制作された五月女哲平の絵画やオブジェは、表面から見えない塗り重ねた色層が積み重ねられた時間を感じさせ、展示空間をささやかに変えます。

 

なお、期間中の月曜日は休館日となっております(5月1日は開館)。
開催状況につきましては、公式サイトでご確認ください。

豊田市美術館 公式サイト
https://www.museum.toyota.aichi.jp/



   


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